top of page

適性配置と密度

生物の教科書では「密度依存性」として:
「個体群が混み合い、密度が高くなると、それぞれの個体が得ることができる資源のパイは減小する。より小さい生物資源しか、生命機能に振り向けることができなくなり、個体成長率は鈍化する」との記述が見られます。日本ミツバチ(ニホンミツバチ)の群れが密集することには、以下のようなリスクが伴います。

 

 

1. 資源競争の激化と繁殖成功率の低下

密集した環境では、蜜源や花粉源が限られるため、群れ間での競争が激しくなります。特に都市部では、蜜源植物が不足しがちであり、ミツバチ群れ同士の競合が生じやすくなります。これにより、採餌効率が低下し、繁殖成功率が下がる可能性があります。

 

2. 社会的ストレスと繁殖抑制

高密度な群れでは、社会的なストレスが増加し、特に劣位の群れでは繁殖が抑制されることがあります。ニホンミツバチは、外的ストレスや環境変化に敏感であり、密集状態が続くと、女王バチの産卵が停止することや、群れ全体の活動が低下することが報告されています。

 

3. 近親交配と遺伝的多様性の低下

密集した環境や生息地の分断により、近親交配のリスクが高まります。これは、遺伝的多様性の低下や劣性遺伝子の発現による適応度の低下(近交弱勢)を引き起こす可能性があります。

 

4. 病原体の伝播リスクの増加

密集した群れでは、病原体や寄生虫の伝播が容易になり、感染症のリスクが高まります。ニホンミツバチは、巣箱内で密集して生活し、働き蜂同士は常に高頻度で接触しているため、病原菌やウイルスがコロニー全体に蔓延しやすい状態にあります。特に、アカリンダニやサックブルード病などの感染症が問題となっています。
 

5. 植物における競争と繁殖制限

植物でも、密集により光や栄養の競争が激しくなり、個体の成長や繁殖が制限されることがあります。一部の植物は、過密状態を感知すると、繁殖を抑制するメカニズムを持つことが知られています。

これらのリスクを軽減するためには、適切な群れ数の管理や生息地の保全が重要です。特に、都市部での養蜂活動では、蜜源植物の確保や巣箱の配置間隔の調整など、環境に配慮した管理が求められます。

 

可能なら一つの養蜂場では、迷いバチを少なくするためにも、巣箱間は少なくても3m以上の距離をおき、その飼育巣箱の数は、「数年間で最も多数を配置し、かつ採蜜実績の良かった時期の数の7割以下」に配置を抑制した方が良いと思われます。「一ケ所の飼育場は、3群以下」と決め、抑制している方もあります。


自然界における、公表された野生の群れの推定値は、自然(例えば自然保護区)と農業地帯の両方で1キロ平方メートルあたり0.1から7.7群あるいはそれ以上(下記参照)であると言われています。これから、飼育下では、程度の差はあれど、自然界と比べ全て過密と言わざるを得ません​最適な密度は、時期や気候変動の環境の変化により、大きく推移する蜜源と、日本ミツバチだけでなく、西洋ミツバチを始めとする他の昆虫の蜜源をめぐる競合者や、スズメバチ等捕食者の数量に左右されるため、常に変化します。

 

密度についての参考資料

「野生蜜蜂との遊び方」トーマス・シーリー著  築地書館より

 

 ニューヨーク南部の起状の多い、深い森の地域での1キロ平方メートルあたり1群程度という推定値は、ヨーロッパ、中東、アフリカ(土着)の、アメリカ、オーストラリア(導入された)の広大な範囲にわたる、西洋ミツバチで報告されたきた野生の群れの範囲の低い値にあたるようにみえる。ヒンソンらによって評価されたように、公表された野生の群れの推定値は、自然(例えば自然保護区)と農業地帯の両方で1平方メートルあたり0.1から7.7群あるいはそれ以上である。
 

「蜂から見た花の世界 」佐々木正巳 著  海游社 p341より

 

図12 蜂群の配置と採餌圏の広がりとの関係

養蜂家が1ケ所に多くの群を置きすぎると、周りに花が咲いていても、すでに採られてしまって「蜜枯れ」の状態となってしまう。蜂は遠くの花を求めざると得なくなり、燃費分の消費が多くなる。エネルギー効率を重視する蜂にとっては辛い状況」
 

「我が家にミツバチがやって来た」久志 富士男著 高文研 第6刷 P177より

 

(前略)飽和状態になると全群が弱り、オオスズメバチに蹂躙され、全群が一挙に倒れる。蜂場に1群も強勢群がいなくなったら飽和状態となったとみてよいであろう。2008年5月、椎の花のあたり年であった。私は椎の花の咲き具合を見て回った。分蜂がほぼ終わり、二ホンミツバチが勢いづく季節である。蜂場の群数と分蜂数がその周りの椎の花の咲き具合にほぼ比例することがあらためてわかった。さらにこの時期の集蜜量がその後の勢いを保障するのである。

この上限の群数を決めるのは、春の流蜜期の集蜜量だけではなく、夏、7月の半場から9月末までの乏蜜期の流蜜も影響するが、まずは繁殖期の流蜜である。

 給餌なしの自然界では、これがニホンミツバチの生息の第一の要因であろう。

 以上のことを勘案すると、ハチ群に活気を与え、採蜜を維持していくためには、蜂場の群れの数を飽和状態の3分の2程度に制限することであろう。

自然界ではオオスズメバチがその働きをしていると考えられる。

bottom of page